久しぶりに読書している。

最近の読んでいる本について。あるいはその他のこと。

「赤と黒 (下)」 スタンダール 新潮文庫

衝撃的な本作もようやく読了。実際の事件をモデルにしたものだそうだ。

 

上巻でのレーナル夫人との不倫が終わりを告げ、今度は大貴族ラ・モール家の秘書として雇われたジュリアン・ソレル。業務においては才能を示し信頼を得るも、田舎の平民出身のため貴族の間で適切に振舞うことが難しく、よく恥をかいていた。

 

ラ・モール家の娘マチルドは美しく才気があり、父親は公爵家に嫁がせたかったが、本人は退屈な未来を予見して気乗りがしなかった。ジュリアンは平民ながら気位が高く金銭欲もなく、勇気があると見込んだ彼女は、自分が恋をしていると感じ関係を持ってしまう。

 

しかしそこからが大変だった。移り気でプライドの塊のようなマチルドは、激しく恋したかと思えば次の日には冷めてすっかり冷淡になるなど、ジュリアンを翻弄し苦しめてしまう。彼らの恋は駆け引きだらけの戦闘のようであり、貴族の知人のアドバイスに従って、ジュリアンは決して本心を見せずにとうとう勝利したかにみえたが、彼女の妊娠によって重大局面を迎える。

 

マチルドの父を激怒させてしまい、さらにレーナル夫人からジュリアンを誹謗する手紙が届いたことで状況はさらに悪化したが、これはジュリアンを貶めるための陰謀であった。

 

冷静さを失ったジュリアンは、教会でレーナル夫人を狙撃。逮捕されて、自ら死刑を願う。あらゆる手を尽くして助命に奔走するマチルド。そして、レーナル夫人は一命をとりとめ、回復する。

 

マチルドは各所に手を回してジュリアンを無罪にしようとするが、抱き込んだはずの陪審員はすべて裏切り、ジュリアンは死刑になってしまう。執行までの期間に、マチルドもレーナル夫人も留置場のジュリアンに毎日のように会いに来るが、結局ジュリアンが本当に愛していたのはレーナル夫人であり、当時の思い出ばかりがよみがえるのだった。

 

最終的にジュリアンに刑が執行されて本作は幕を閉じる。うーむ、もったいない、才能あって女性にはもてる美少年ジュリアン、あまりに気位が高すぎて破滅への道をたどってしまったのか・・・。途中からのスピード感が素晴らしく楽しく読めた。才色兼備でカースト最上位の女性の内面ってこんなのかいな、というのも(皆そうだということはないだろうが)面白い。

「アンナ・カレーニナ」 トルストイ 光文社古典新訳文庫

やっと読み終わった!超大作。単なる不倫のお話というだけではない、いろんなものが詰め込まれた小説でした。

 

登場人物がだいたい皆美形、金持ち、有能、上品な貴族という少女漫画のような設定がありつつも、当時のロシアの社交界、政治、農業、宗教、哲学とか、身内の死や出産とかさまざまな描写がけっこう詳しくなされています。

 

アンナの不倫相手となるヴロンスキーは当初、キティという少女に交際を申し込むつもりであり、キティも彼に惚れてしまっていたため結婚を申し込みに来たリョーヴィンを袖にしてしまう。

 

ところがヴロンスキーはパーティでアンナを目にするや、即座に魂を奪われたようになり、キティどころではなくなる。猛烈なアタックの末、アンナの心を射止めたヴロンスキーだが、アンナには夫も子供もいた。

 

キティはショックで病気となり、リョーヴィンとも疎遠になっていたが、また巡り合わせで出会い和解し、晴れて結婚する。この二人はなんだかんだありつつも子供もでき、幸せな夫婦となった。

 

アンナとヴロンスキーは、お互い愛し合いながらも残してきたアンナの一人息子のことや、前夫との離婚が進まないことで少しずつ溝ができていく。ヴロンスキーの愛情が薄れてきたと思い、他に女がいると疑いだしたアンナ。些細なことで口論を繰り返し、とうとう自分が死ぬことでヴロンスキーに後悔させてやるという衝動から、列車に飛び込んで無残な死を遂げてしまう。

 

全体を通して色濃く描かれているのが「嫉妬」。リョーヴィンはかなり感情に起伏がある人物であるが、キティが他の貴族と雑談するとめちゃくちゃ不機嫌になるし、アンナの死も元々は嫉妬からのヒステリー(実際にはヴロンスキーは浮気していなかった)なのだった。恋人や配偶者が魅力的すぎると気苦労が耐えないようだ。

 

確かに長いことは長くて、不倫とかロマンスだけを求める人には想定外の箇所も多いだろう。しかし人の心の揺れ動きや、いろんな人物の主義主張など事細かに書かれていてさすがの著作だと思った。

 

ただ、まあ、不倫はたいていろくな結果にはならないと思います、ほんとに。

「金子みすゞ名詩集」 彩図社文芸部

kindle unlimitedにあったので、なんとなく。他の詩集に比べてとても読みやすかった。児童文学を読んでいるような感じ。

 

プロフィールで「自ら死を選び26歳でこの世を去る」とあり驚いた。そういうことは特に知らなかった。詩の内容からすると著者はのんきな人なのかなとさえ思っていたぐらいだ。

 

何冊か同時進行でいろんな人の詩集を読んでいるが、どうもその方面の良し悪しは自分にはわからないのかもしれない。何かしら感動することを期待していたのだが、残念ながらそういう素養はなかったみたい。たぶん繊細さがないのだろうな。

「レ・ミゼラブル(下)」 ヴィクトル・ユゴー 角川文庫

やっと読了。長く感じたが、これでも本来の作品をかなり凝縮したものなのだそうだ。いったいどんな結末になるのかと思っていたが、予想以上に感動的なものだった。

 

ジャン・ヴァルジャンが逃亡生活を送る中、共に生活する養女ともいうべきコゼットは、マリウスという青年と逢引きをするようになる。ジャンとコゼットがイギリスへ引っ越すという話を聞いたマリウスは絶望し、政治的暴動の中で命を捨てようとするが、それを知ったジャンは大怪我を負ったマリウスを奇跡的に救い出す。

 

コゼットの恋に対しても、当初ジャンはマリウスへの憎悪を感じる。様々な場面で、彼は負の感情や自己保存に苦しめられるのだが、結局は奮起して自分の良心に従い行動する。逮捕されることも覚悟で宿敵ジャヴェールの命も救う。

 

コゼットとマリウスは結婚し、すべてがうまくいくかというところで、ジャンはマリウスに自分が前科者だと打ち明け、苦しみに耐えながらコゼットと距離を置いて会わないようにする。精神的支柱を失ったせいか、一気に衰弱し寝たきりになってしまう。

 

一方で、コゼットの元養父であり、かつてジャンを陥れようとした悪党がマリウスのもとを訪れ、ジャンの秘密を売ろうとするが、逆にマリウスは自分がジャンに命を助けられたことや、他にも数々の高潔な無私の行為を知ることになる。

 

最後にジャンが死ぬ寸前、コゼットとマリウスが駆けつけ、お互い心が通じ合ったところで終わる。

 

そんなお話だった。現実離れした設定ではあるが、面白かった。

「智恵子抄」 高村光太郎 新潮文庫

なんとなく知っていた詩集。芸術家・高村光太郎が、今でいう統合失調症を患って亡くなった妻を思って作った詩の数々。

 

光太郎は純朴な妻のことが大好きで、芸術作品も妻に見せるのがモチベーションとなって創作していたらしい。そのため彼女が亡くなった時の嘆きは大変なものであった。

 

智恵子は裕福な家庭の出であり、自らも油絵の道に進みたいという志があったが、光太郎との結婚でそれを断念。芸術家によくある貧困生活の中で、実家にもトラブルがあり、神経を徐々に病んで入院し、数年後に亡くなった。

 

田舎出身の妻と東京出身の光太郎の感性の違いや、女性としての精神的肉体的魅力、病中や没後の思いなどさまざまな詩がつづられていた。仲の良い夫婦が死に別れることは第三者から見ても悲しみの度合いが大きく、読んでいてつらさを感じた。それでも一つひとつの詩はとても美しいと思う。

「眠られぬ夜のために 第二部」 ヒルティ 岩波文庫

他の積読をさしおいて、一気に読んでしまった。本来こういう読み方をすべきでなく、一日少しずつ読むための本である。

 

第一巻と同じく、キリスト教を最上のものとしていかに内的成長を達成するかを繰り返し書き連ねてある。とはいえ、教会への礼拝とか形式的なことには否定的で、真のキリスト者になるためには、というかなりハードルの高い要求である。

 

厳格な部分も多々あるが、全体として感銘を受けたので、岩波文庫の「福音書」も買ってみた。聖書はこれまでろくに読んでいなかったのであるが。ただし一気読みはあんまり意味がなさそうなのでちびちび進めようと思う。

 

正直、ネットニュースなどばかり読んでいるとだんだん心が汚れてしまう気がしていた。いい本を読んだからといって人格が高まるとは限らないが、おかしな事件や政治の迷走、享楽的な記事ばかりに触れているよりはきっとましだろう。

「眠られぬ夜のために 第一部」 ヒルティ 岩波文庫

不眠症の対策?らしきものはほんのわずかに触れられているに過ぎない。寝つきの悪い時のために、一日一話読むことができるよう、366日分の日付をつけて配してある。

 

内容としては、一般的な道徳もあるが、たいていはキリスト教とか神、聖書の話である。形骸的な信仰ではなく、本当のキリスト教者になるための提言集。

 

私はさして抵抗があったわけではないが、人によっては宗教、あるいはスピリチュアリズム的なものに好き嫌いがあるかもしれないので、読者を選ぶ本だと思った。

 

著者は極めて信心深く、そしておそらく神秘体験も多少あるのではないかと思われる文章である。聖書の補足といった意味合いもあろう。

 

一日ひとつというわけにはいかず、わりと早く読んでしまった。