「若き詩人への手紙 若き女性への手紙」 リルケ 新潮文庫
リルケという高名なドイツの詩人が、おそらく会ったこともないであろう若い人の相談を受けて、何度もやりとりをした書簡である。本としては薄いが文章が濃い。
内容に関しては、詩人の内面的な部分など凡人にはよくわからないところもあるが、忙しく体調も思わしくないリルケが、これほど懇切丁寧に長い文章で何度もアドバイスを送っているということに、彼の誠実で高潔な人格がにじみ出ていて、驚かざるを得なかった。
実際、相手を適当にあしらったりすることなく、真正面から全力で相手を思いやり、励まし、情愛をよせているのである。通常見知らぬ人にそこまでできるだろうか。
ただ残念ながら「訳者後記」によれば、若き詩人の方は生活苦からか、リルケのアドバイスに背いてつまらない大衆小説を新聞に書いていたそうである。一方、女性の方は大変な苦悩がありつつもリルケに励まされ、精神的な強さ美しさを獲得して人生を送ったらしい。
人に対して誠実に向き合うというのは、言うのは易しいが容易ではないと思う。まして自分が成功している立場で、弱く苦しんでいる者の身になれるというのは大変な人格だと感じた。